エイリアン 第一話:pleasure eggs boat 遊卵船

■ナオ・S・パーズ 13歳

遭難船や消息の断った惑星間航行船の探索隊に所属している少年。宇宙連邦軍の一員ではあるが末端も末端。遊撃で半ば宇宙海賊呼ばわりされている荒くれ者だらけの船に属している。
とある惑星の捨て子だったのを拾われ、ほとんど奴隷の身分でコキ使われてきた。
任務のほとんどは最前線で炭鉱のカナリア扱い。真っ先に死ぬので、同じ境遇だった者達は大体死んでいる。主人公は運良くまだそういった手合いに出会っていない。
擦れてはいないがいつも死に怯えている為、危険察知能力が高い。
愛を知らず、昔見せられた雑誌の女性を見てから心の奥底で母性や愛を求めている。
武装は最低限の犬も殺せないビームピストルとバリア装置の腕輪だけでいつも歩かされている。

■エイリアン勢

  • マザー

元々はエロ触手を生み出す為に培養され生み出された産物だったが、マッドサイエンティストな科学者の失敗により暴走。宇宙を旅し死にかけていたところを遊覧船に取りつくことに成功。まずは安全にすべく船内の者を皆殺しにする。
それから船のコンピューターに浸食し、自らを理解すべく知識を取り込み始めたところ、主人公達の船がやって来たので招き入れた。
人型、オスの質の良い精液をエネルギーに変えて生きられると理解し、自分達に性的欲求を抱く者以外は殺すようになる。
そして主人公がその中で選ばれ、主人公から精を搾取する為だけに進化することになる。

  • 新マザー・テルラ

主人公の脳波を解析し生まれた存在。マザーを脳波でコントロールできる上に、主人公に怖がられないように愛らしい容姿になっている。
主人公のことは搾取対象としか思っていないが、表面上はとても母性溢れた言動をする。戦闘能力は皆無。

  • 端末型

マザーの触手末端にある個体。より効率的に船内の機能や知識を得る為にあったが、主人公の趣味嗜好、脳波を読み取ることもできる。それを参考にマザーへ共有し新たな個体を生産させている。

  • 戦闘型

人間と生殖を試みる為に作られた最初のツール。戦闘能力が高く、無重力を縦横無尽に動く。船の知識からおっぱいに関連した人型しか生成されておらず、下半身はエイリアンのまま。なので唯一おっぱいに発情した主人公以外を皆殺しにしてしまう。初期ロッドなので無表情で無口。
性的な行為も押し付けたり挟み込んだりするだけ。乱暴。段々とカタコトになったり言葉数が増え、主人公の趣味嗜好を理解しながら進化した個体が産まれていく。

  • コミュニケーション型

主人公の脳波を解析し、より精液を搾り取れる様にする為に生み出された個体。
コミュニケーション能力が高く、より主人公の好みに合わせてある。
生意気で小馬鹿にしつつも主人公を愛し、恋愛感情を持たせるように誘導してくる言葉遣い。しかしあくまでも端末なので表面上だけ。後に更に2体生み出される。同じ個体だがリボンの色だけ違う。

■遊覧船艦ミルムラ

銀河規模でエロ玩具を販売している企業が保有する遊覧船。今回は惑星間の性的交友を成立させたとして記念パーティーが催されていた。宇宙連合に所属する性的商品の8割のシェアを誇っている。

銀河連合第688矮小銀河9億5千万310星団所属遊撃船「天音号」:

天音号船内:船室……

 僕の日常は、暗い独房のような狭い部屋から始まる。

「おら、起きろ! いつまで寝てんだこの愚図!!」

「ぐぁっ!? ……す、すいま、せん……っ」

 毎日気絶するほど辛い仕事ばかりさせられ、食事は生きるのにギリギリ死なない程度の物。しかも食べ残しだし、偶に腐りかけ。水も泥水のようにジャリジャリしている。反抗的だと見られれば小便をかけられることすらあった。

 スペースデブリ。それが僕という人間の総称。この広い宇宙で捨てられた孤児達の1人。身寄りも無く、人権も存在しない。使い潰されて当然の奴隷。

 毎日どこかで僕と同じようなスペースデブリが好きに使われ、無意味に死んでいくのだと聞かされ、僕もいずれそうなるのだと。僕を拾ったこの船の人達に長年言われてきた。

「今日は消息を絶った遊覧船からの救助要請を拾った。仕事だぞ”カナリア”」

「…はい」

 この船は銀河連合に属している末端も末端だという。一応軍の船だけど、その実態はこういった船の墓荒らしをしている荒くれ者達だ。軍服だってほとんど着ているところを見たことがない。

 僕みたいなスペースデブリだって平気で使うし、軍も容認している。そもそも人権が無い僕達は消耗品扱いなのだ。

 そして”カナリア”。それは僕の唯一の仕事であり、蔑称。

天音号船内:格納庫……

「おーし、準備したなぁ」

 銀河連合軍はこの宇宙で最も広大な組織であり、連盟に連なるあらゆる星々に常駐している。その中でも一際辺境であるこの銀河の端っこでは、今日も”便利屋”として活動していた。

 軍の型落ちビーム銃を手に持ち、パワードスーツを着込んだ男達は、今日も軍人らしからぬ顔で仕事の時間を待っていた。

「ああ。今回は金持ちの船だろ? 金目のもんあると良いなぁ」

「一番良いのは船そのものが無事であることだけど……その場合はエイリアンを警戒しなきゃだもんなぁ……」

「ばーか、その為のカナリアだろ? お前新人だっけ?」

「うっス。あのチビがカナリアってのは? ていうかカナリアってなんすか?」

「俺も船長から聞いただけだから知らねーけど。鳥の名前なんだってよ。よく鉱山とかで有毒ガスとか噴き出るだろ? カナリアって鳥は、それを感知して鳴き止むって話だ」

「あー……つまり、こいつはエイリアンが居た時に直ぐ死んで俺達に危険を知らせるってことスか!」

「てことだな!!」

「……」

 前の補給の際にやってきた新人に丁寧に教えている先輩軍人を横目に、僕も自分の装備を整えていた。

 といっても僕はカナリア。危険を知らせるだけの消耗品。あの頃、僕と同じように連れて来られたスペースデブリの残りも、今は僕だけだ。きっと直ぐ死ぬのだろう。そう思って生きている。生きることを、強制されている。

『間もなく目標を捕捉する。各員第二種警戒態勢を維持しつつ待機だ。一応戦闘機も用意しておけよ』

 管制室からの声により、全員が仕事の顔……という訳でもなく、いつものことだと緩んだ雰囲気でいた。

 当然僕は部隊の一番前が定位置だ。

『目標は遊覧船MIRUMURA。周辺星雲を牛耳っている豪商達を招いたパーティー中に消息を絶ったらしい。救難信号が出てから数週間で……死体も新しいだろう。腐る前に片付けろよ……よし、捕捉した。モニターに出すので確認しろ』

 備え付けられたモニターに映し出されたのは、真新しく輝かしい装甲を持つ巨大遊覧船。というかまるっきりあれは、連合軍が配備している戦艦だ。型落ちの。

「……どういうことだ? ありゃあ……遊覧船、なのか? どう見てもうちの軍の母艦じゃねぇか」

「いや、よく見ろ。装甲がここ等の色じゃねぇ。多分軍から払い下げられたやつを買い取ったんだろ。確かにデカい分、輸送には使えるからな」

「酔狂な金持ちだ。連合の戦艦とか解体すりゃあ良い値段になりそうだけどよ……」

「うちで使うってのはどうです」

「馬鹿、維持費で赤字どころか破産しちまうよ。何にしろ状態は良さそうだ。いけんじゃね?」

 徐々に近付いてくる遊覧船。大きさだけで天音号の10倍はある母艦級だ。確かに金持ちじゃなきゃあんなの買える訳がない。天文学的収入が必要だろ、と考えるが、僕には想像もつかない。

「おい、カナリア」

「あぐっ!?」

 ボーっと立って眺めていたら、突然後ろから背中を蹴り飛ばされ、硬い金属床を転がる。痛みに悶絶しながらも見上げれば、さっき話していた新人がこちらを見下していた。

「お前みたいな消耗品がいっちょまえに空気吸えてるのは俺達のお陰なんだろ? 暇潰しに付き合えよ。なぁ? 俺パワードスーツ着るの初めてだから調節したいんだわ。ちょっとサンドバックになれ」

「そんな―――ひぐっ!」

「なに反抗しようとしてんだ、ああ?」

 腕を掴まれ持ち上げられてしまう。碌に食べていない身体は枯れ木のようで、筋肉も薄く肩が外れそうになる。

「はは、ほんと貧弱だなぁ。しかもお前、旧人類型だろ? 進化もできない虫ケラがよく生き残ってきたもんだよ。なぁ?」

「はは、違いない!」

 確かに、僕以外の全員が新世代型の人類だ。様々な遺伝子操作とあらゆる星のバイオ技術によって強化されているし。それに比べれば何の強化も受けず産まれた僕のなんと貧弱なこと。旧人類用の宇宙放射線浄化装置が無ければ今頃既に死んでいるところだ。

 きっと生みの親は貧乏なのに僕を産んだのだろう。そして捨てた。僕が5歳の時に。

 それからもう8年。顔もどんな人だったかも忘れてしまった。

「あんだけ綺麗な船だ。きっとエイリアンが入り込んだんだろうよ。良かったなカナリア。役立って死ねるぞ? ははははははっっ!!!」

「はは……は……はっ」

 どうせ死ぬなら、少しでも痛みなく死にたい。最後の最後まで顔色を伺い、笑えもしないのにヒクヒクと口角を上げて不細工に笑うと、更に大きく嘲笑された。

(……早く死にたい)

 もう希望など無い。死ねるなら一瞬で楽に。それだけが望みだ。

『間もなく着艦する。着艦用のビーコンが出たので、まだ生存者が居る可能性もある。注意しろ』

「「イエッサー!」」

「……ちっ、暇潰しは無しか。ま、生き残ったら遊んでやるよ」

「……」
 腕を離してもらい、その場に蹲る。痛がっている場合じゃない。早く手首に付けているブレスレットに手をかけながら立ち上がった。気を抜けば死にかねないのだから。

 ガコンッと大きな揺れと一緒に、格納庫の扉が開く。

「ほら、行けカナリア」

「…っ」

 最初の一歩を僕が歩く。頼りないビーム小銃を構えながら、慎重に、慎重に……

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

船内・中央指令室

「カナリア出ました。部隊出撃」

「ああ……」

「しかし良かったんですか? 戦艦クラスとなると我々だけでの探索は手に余りそうですが……」

 その頃、指令室で部隊を見送る艦長にレーダー班が困惑顔で質問していた。

 今回の作戦。最初に救援要請のレーダーを受け取った天音号は、艦長の命令により他部隊との協力を拒否。単体での作戦任務として受けていたのだった。

「ふん、こんな辺境の宙域。我々と同じ俗物しかおらんさ。どうせ探索先で獲物の取り合いが始まるに決まっている。そんな不毛なやり取りをするぐらいなら、多少リスクを取ってもこちらで独占する方が旨味があるさ」

「宇宙連合軍って言っても、所詮は群れの集まりってことですかい」

「お前達のような賊崩れすら雇うのだからな。余程人員不足なのだろうさ」

「へへ、違いありませんね」

 どれだけ技術が発展しても。どれだけ人が進化をしても。心が、それを形成する社会が変わらなければ世界は腐るばかり。それは数千年の時を得ても尚顕在化していた……

遊覧船MIRUMURA:発着場

「……」

 速足で格納庫から出て周囲を見渡す。まるで巨大な鉄の箱みたいで、僕達以外の船も停泊しているようだった。おそらくは他の豪商達の船だろう。どれも無駄に豪華で高そうだ。そのほとんんどは軍の高性能艦を改造したもののようだが。

 上を見上げればギラギラとした灯りが天上高くから照らしてきて、いつも暗闇に居る僕には少し強い。無機質である分余計に……

(今のところ危険は……ん?)

 船内方面へと歩いて行く途中、何かを一瞬視界の端で捉える。重なっている戦闘機の間。

(……なんだ?)

 戦闘機や戦艦が大き過ぎて遠近感がバグりそうだけど、確かに小さい何かが通った気がする。

 警戒心を最大に上げて歩き続け、ようやく壁際に辿り着いた。そこでようやく格納庫から部隊が降りてくる。

「おーし、じゃあ行くかぁ」

「たくっ、クリアリングがおっせぇんだよ糞チビが」

「テメェは扉の前だ。トーマス、隔壁を開けろ」

「へいへーい」

 船内へと続く通路を確保する為に、1人がパネルへのハッキングを仕掛ける。

「セキュリティも……よし、更新してないな。へへ、旧型の悪いところだ……ぜっと」

 マニアらしい鍵開け技術を持つ隊員は、得意げに鼻を鳴らしながらパネルのセキュリティを瞬く間に解いてしまう。赤く光っていた点灯が緑に変わった。

 扉が開くと、また僕の背中を蹴ってくる隊長が下卑た笑みを浮かべる。

「さぁ本格的にお前の出番だカナリア。何か居たらそのビーム銃で攻撃し時間を稼げよ? 間に合えば助けてやる」

「……はい」

 灯りは付いている通路を、また1人歩き出す。

(大丈夫、静かだ……大丈夫……大丈夫だ……)

 血の跡も、這いずった様な形跡も、惨劇も欠片も今のところ見当たらない。もっと言えば、最近まで使われていたのだろう、汚れも見当たらなかった。もしかしたらエンジントラブル等で動けなくなっただけかもしれない。それなら仕事も楽だ。

遊覧船MIRUMURA:発着場前・船内通路

 間違っても無残な死に方なんてしたくない。息を飲み、一歩一歩足を進める。

「おいもっと早く歩けやー!」

「おっせぇなぁ……ちっ」

 ―――――チュンッ!!!

「え、ひっ!?」

「お、おい」

「これぐらいしないと真面目にやんないでしょ? おいカナリアー! 俺達に殺されたくなきゃ頑張れよー? はははっ!」

 僕の遅さがそんなにイラつくのか。新人が勝手に銃撃。僕の足元をわざと撃ってきた。そんなこと今までなかったから怖くて足が早くなる。

「おっ、早くなったじゃん? ほれほれ、もっとだもっとー。はは、ウサギみたいにピョンピョン跳ねておもしれー」

「当てるなよ? もし生存者が居たら後で面倒だ」

「わかってますよー、へへ……」

 何度も撃たれる足元。ギリギリを狙っているのか、スーツも掠ってくる。

(くそ……くそっ!)

 死に方すら選ばせてくれない。何の権利も持たないことがこんなにも残酷だとは。益々僕の中の絶望が大きくっていく。力さえあれば、権利さえあれば、僕にもチャンスがあれば。こんな苦しい想いをしなくて済むのに、無い物ねだりで泣きを見るしかないなんて。

「はぁ……はぁ…はぁ」

 何とか通路端、次のフロアに繋がる扉に辿り着く。途中の扉は全てロックされており、行けそうなのはここだけだった。

 悠々と歩いてくる男達を見ながら、撃たれる心配が無くなったと思い、安堵の表情になるが。

―――チュンッ!!

「―――!?」

「なに勝手に休んでんだ。立ってろ」

「あ、隊長。俺射撃訓練したいっす」

「あんまり遊ぶなよ?」

「分かってますよー。おいカナリア、そこ動くなよー、動いたら当たるぞー? っぎゃはははははっっ!!!」

「~~~~~っっ」

 こちらに歩きながらビーム銃を出して構えてくる。

 ふざけるな。こんな命を弄ぶような遊びをするなんて。僕が一体何をしたっていうんだ。

「……はぁ」

 なのに、怒りは直ぐに諦めに辿り着いてしまう。遊びに付き合う気なんてない。苦しんで死にたくない。ただ、それだけなんだ。

 けど……けど……

(助けてよ……誰か、誰でもいいから……)

 もうエイリアンでもいい。犯罪者でもいい。他の知らない誰かだって構わない。こんな糞みたいな現状から抜け出せるなら……

「助けて、助けてください……っ!」

「はっ、誰もお前なんか助け―――――――――――」

バッツン――――――――――ッ!!!!!

「「「――――!?!?」」」

 その瞬間、視界が闇に包まれた。

「はっ? おい、何だこれ!?」

「全員警戒体勢!! ライトを付けて周囲確認!」

 経験豊富なだけあってベテランの部隊長が直ぐに最大警戒で命令を出す。唯一離れていた僕の近くまで来ていた新人にも命令を出した。

「新人! カナリアを連れて来い!!」

「は、はいっ! 来いカナリア! さっさと立て!」

「…?」

 その時、僕は違うことに意識が囚われていた。背にしていたドアの向こう側で、何かの音が耳に入ってきたのだ。

ザザ…ザザザ……

(何かの……這いずる、音?)

「おいなにやってんだ!! 早くこ―――――」

 ガシャンッ

「えっ」

 扉のロックが突然外れ、開く。

「んなっ!? テメェなにやってるラe――――……」

ヒュバ――――――ザシャッ――――ゴトッ

「「「――――――」」」

 僕の視線では、扉の先。暗闇から何かが僕の上を素早くと跳んだと思ったら、新人すら通り過ぎて着地していた。

 新人は素っ頓狂な声を上げて茫然としていたけど……何か生々しいのが床に落ちた音がして、暗闇の中そこまで歩いていく。立ったまま動かない新人の横に落ちたそれに、小銃のライトを当てると―――――

ゴロ……ゴロ……

「――――――――――――」
 それは、彼の頭だった。

「……ぁ、ぁ…ぁ」

「おい、新人!! 早くこちらに来い!! どうしたんだ!!? カナリア報告しろ!!」

「……はっはっはっはっ」

 なんだこれ、なんだこれ、なんだこれ。

 息が苦しい。胸が締め付けられる。心臓が痛い。

ぶっしぃぃいぃぃししぃぃぃ~~~~~~~!!!!

 繋がっていない首の断面から、今頃になって血しぶきの雨が上がる。こちらに部隊のライトが幾つも当たれば、血塗れの僕が混乱とショックで膝を突いていたのが見えていただろう。

 そして、僕の前で、その惨劇を起こした物体の姿も。

「…………」

「なん…だ、こいつは……っ」

 向こうからはどう見えているか分からない。けれど、僕の方からは恐怖以外のなにものでもない物が映っていた。

 胴体から生えたような骨格という感じの尻尾。肋骨を思わせる部分は奇怪な音と共に動き、その切っ先には赤い液体が滴り落ちる。大きさで言えば僕の半分くらいの”ナニカ”。

「……ぁ」

 そうこうしている内に、後ろから更に複数の音が聞こえてくる。暗闇の中で、爛々と光るそれは、目。沢山の目だ。

「て、撤退だぁ!!!!」

「え、まっ」

 腰が抜けて立てない。振り返れば、部隊は一目散に発着場へ走り出していた。僕には目もくれず、瞬く間にその人影は小さくなっていく。

「ま…ぁ」

 怖くて声も出ない。出口に辿り着いた部隊は、ドアにロックをかけて閉めようと再度ハッキングをしているようだった。その間に、

ザザザザザザ――――――――――

「ひっ―――――――?!?」

 複数の這いずる音と共に、高速で移動するナニカ達が部隊に向かって行く。僕は扉の横で身を丸めて怯えるばかりで、危険を知らせることなどできなかった。

「やべぇっ! 早くしろ!!」

「わかってるよっ! 黙ってろ!!」

「来る! 来るって!!!」

「くそ、なんで武器が効かねぇんだ!!?」

「ダメだ、間に合わねぇ!! 走れぇええ!!!!」

 ああ、駄目だ。行っちゃう。

 どんどん遠くなっていく足音と、それを追い駆ける這いずる音。僕を置いてけぼりにして、徐々に閉まっていく扉。

「まって……待ってよぉ……っ」

 こんな場所に、1人で置いてかれて死ぬのか? 僕は……?

「いやだ、待って……待ってよぉぉっぉおおおおおおおっっっ!!!!!」

 扉は、無常にも重い隔壁と共に閉まった。

「ぁ……ぁぁ…」

―――――『船内電源 回復します』

「―――!!」

 通路に光が戻る。まだ扉の向こうで響く銃声と格納庫の閉まっていく音が耳に微かに入ってくるが。暗闇に慣れはじめていた目にはキツく、僅かに細めた。

 だが、それどころじゃない。

 何度も転びそうになりながら、入口の扉に向かって走る。

「開けて、開けてよ!!!」

 隔壁ごと閉まった扉。開く訳がないのに、僕は必死に扉を叩いて呼びかける。

(死ぬのは嫌だ!! 死ぬのは嫌だ!! いやだいやだいやだいやだいやだぁっ!!!!)

 楽に死にたいなんてウソだ。

 生きていたい。やりたいことが沢山あるんだ。行ってみたい場所が幾らでもあるんだ。

 こんな甲斐の無い人生ごめんだ。まだ、まだだ……

「まだ死にたくない!!! 僕だって僕だってぇぇぇぇええええっっ!!!!!」

 ……ガサッ

「ひっ!?」

 再度、這いずる音がする。

「……ぁ」

 振り向けば、ソレは居た。

 認識する間もなく走り出すソレは、僕の感傷など関係なく飛び掛かり――――

「う、わぁあああっっ!!!」

―――――ばにゅんっ!

「――――――………っっっ!!!」

 展開したバリアに、阻まれた。

「はぁ、はぁ、はぁっ!!」

(な、何とか、防げ―――――)

――――――ばにゅにゅにゅにゅにゅにゅっっ!!!!

「うわぁあぁあああっっ?!!?!?!」

 しかし一体ではない。数にして十数のナニカが、僕の展開したバリア全体に張り付いたのだ。

 そうして、やっと僕はその”ナニカ”の全体像を明るい光の下で見ることになる。

「「「……」」」

「……ひ……ひ、と?」

 さっきは後ろ姿しか分からなかったが、今度は上半身全体が見れた。顔の輪郭は僕と同じようで幼さを感じ、けれど表情から感情の一切が読み取れない。しかも裸で、あれは……お、おっぱい、というものだと思うけれど、あんな大きいの知らない。それが、バリアに押し付けられていた。

「なん、なの……?」

 エイリアンなのは間違いない。

 間違いないが……さっきの惨劇を思い起こす前に、ある一つの思いが胸中を支配していた。

(……か、かわいいっ!!)

 こんな危機的状況なのに、実際に恐怖しているのに。何故か心のどこかがそう感じてしまうのだ。

 部屋の前をゴミ置き場にされている僕が、そのゴミの中から見つけ出したボロボロの本。その中で生殖に関するモノ、”女性”という存在。旧人類のメスが載っていたソレを見てから、僕の中に疼いていたモノ。

(なんで、どうして……こんな…っ)

 目の前のエイリアンから、その最大の疼きを感じ取ってしまうのだ。どうしようもなく、目を離せないのだ。

 何故か攻撃してこないから、バリアは破れない代わりに、エイリアン……達は、その柔らかな部分をいっぱいに押し付けているだけ。

 よく見ればそれは肌の質感ではなく、へばりついているようにも見えた。多分、旧人類の形を取っているだけなのでは? とも思う。

 人モドキ。そう感じながらも、やはりそのおっぱいから目が離せず凝視してしまう。

 互いに無言なまま数秒。数十秒と経ち、ふと僕は自分の変化に気付く。

……ムクッ、ムクク……ッ

「あっ……ははっ」

 こんな時に。こんな生きるか死ぬかの時に、僕はオスとしての本能に目覚めているらしい。旧人類の生殖方法は知らないけれど、新人類は生殖をしない。人工受精が基本なので僕たちは蛮族だと言われているぐらいだ。

 けれど、もういいや。どうせ死ぬことになるなら……

「……んっ」

 スーツを脱ぎ、僕は生まれたままの姿になる。何故だかドキドキするけれど、気にせず泣き笑いしながら、自分のモノを握った。

「はぁ…はぁ…見たきゃ見なよ……うっ……」

 これがなければ死んでいたかもしれない。蛮族の、快楽目的の自慰行為というやつだ。自分のモノを扱いて、精液を射精する。それだけの行為。なのに、今はなんだか解放感があった。

「「「……」」」

むにゅににぃぃ~~~~♡♡♡ にっちゃっ♡ にっちゃっ♡

ふにゅにゅぬぅぅっっ♡♡ ぐにゅぷりゅんっ♡

「うわぁ…すご、ぃ……っふぅ、ふぅ…っ」

 おっぱいは肌の質感が無いのを証明するように、潰れれば潰れるだけバリアの表面に広がっていく。それが幾つも。幾つも。

 エイリアン達は虚ろな目でギョロッと僕を見ているけれど、それ以上のことはしないし。ペタペタと手で触っているだけ。どうして攻撃しないのか分からないけれど……っ

(というか、人と同じ形してるんだから知能とか無いのかな?)

「ねぇ……君達って、なんなの? エイリアンなの? それとも、どこかの星の新人類?」

「「「……」」」

 もにゅにゅっ♡♡ ねっちゃっ♡ にぢゅにゅぬぬっ♡♡ ぶにゅぢゅっ♡♡

 応えはない。ただ無機質な目でこちらを見つめるだけ……いや、正確には、僕のちんちんを凝視するだけで、後はおっぱいを張り付けまくってるだけだ。

「う、ぅ……そんなに見られると……ふぅ、ふぅ…っ」

 いつも暗い独房の中で1人耽っているので、こんな明るい中、自分からちんちんをおっぴろげてシコるなんて通常なら死ぬほど恥ずかしいだろう。

 けど相手が感情の無い人形のように感じられて、だからこそこんなことが出来てしまえる。彼女達を免罪符に使って、死ぬ前の最後の快楽を貪っている。だって、だって……

みゅぐにゅろっ♡♡ めっちゅぬぅっ♡ みぢゅっ♡ ぬっぢゅのっぉお~~~♡♡♡

 あんな人間モドキの、おっぱいモドキですらエッチに見えてしまうのだから。

(はは、僕ってやっぱり蛮族なんだな…っ、こんな沢山の目が向けられてるのに、ちんちんにクるぅっ!)

 死を意識しているからか、チンチンが痛いぐらい勃起している。玉がグツグツと精子を作り、目の前のメスを孕ませる為に本能を掻き鳴らす。そんな方法も知識も知らないというのに。ひたすらにちんちんの快楽に従うだけの猿になっていく。

「う、ぁ、ぁっ♡ でる、でるっ、イク! エイリアンで出しちゃう! 人間として終わってるのに、ぁ、ぁ、ぁっ♡」
「「「…」」」

「ぁぁ…イグッ!!」

「「「…っ!」」

「えっ―――」

 射精しそう。そう思った瞬間だった。

ガガガガガガガガガッ!!! ――――バキンッ!!!

「―――――!!?!?」

 いきなり鋭利な切っ先で同時に攻撃を始め、一瞬でバリアを破壊される。

(なんだ、結局こうなるのか)

 下品極まりない自慰行為すらまともにできない愚図。それが僕の死に方とは。今度こそ終わりだと、どうせならおっぱいの感触だけでも味わって死のうかと思っ―――――!??

もぢゅにゅにゅにゅにゅぬぅぅううぅ~~~~~~♡♡♡♡♡

「ん”むぅ”ぅ”ぅううぅう~~~~~!!!????」

 体中に訪れる”やわらかい”の奔流。十数体のエイリアンのおっぱいが僕の全身にぶち当たったのだ。

 その重さに耐えられず倒れ伏した僕に、へばりつくようにおっぱいが体中を包む。本当に、吸い付いているのだ。

「うわ、うわぁあぁあぁ~~~~~???」

(なんだこれなんだこれなんだこれ!?!? や、やわらかっ!? すご、いぃぃっ~~~~~っ!!!)

 一度も感じたことのない感触。これが天国というものなのか。許容範囲を遥かに超えた刺激に、脳が震える。

「「「……」」」

にゅむちゅにぃぃ~~~~~~♡♡♡ ちゅんむっ♡

「うわぁ!? ぁ、ぁっ、そこ、だめぇ……っ」

 その内の一体は、懐に潜り込んだ所為で僕のちんちんがおっぱいに挟まれてしまう。いや、そんなもんじゃない。まるでいつか見たスライムみたいに吸い付いて呑み込んでしまったのだ。

にゅっぢゅっ♡ にゅにゅにゅぅぅう~~~~♡♡♡

「あっ、ぁっ♡ うぁっ???♡♡ なんでっ」

 けれど溶かすみたいにはしてこない。へばりついたおっぱいモドキはそのまま動くばかりで。得体の知れない気持ち良さに僕も腰が震えてしまう。

 べちゃべちゃとちんちんに張り付く柔らかさが先っぽから離れようとした瞬間、それは限界に達した。

「も、で…るっ!!」

びゅるっ♡ びゅるるるるうっぅうぅぅうぅぅう~~~~~~~♡♡♡♡♡

「あ、はぁぁあぁぁあ~~~~~♡♡♡♡」

「「「っ!!」」」

ぎゅにゅにゅっ!♡♡♡ にゅばににぃぃ~~~~♡♡♡

「んぁああっ!?!♡♡ やめ、ぉ、ぉっ!?♡♡」

ビクビクビクッ!!♡♡ ぶっびっびいぃぃいっぃい~~~~~♡♡♡♡

 腰から脳天に突き抜けた快感の迸りに、一瞬この世の地獄を忘れてしまう。目の前には死体だってあるのに。命の危険なのに。怖いのに。根源的恐怖よりも先に快楽の虜となってしまった。

 エイリアンは僕の射精に対して敏感に反応すると、そのまま搾り取ろうとおっぱいをもっと押し付けて、尿道からゾリゾリと溜まっていた精液を溢れさせてしまう。

「く、は、はぁ……はぁ…はぁ」

「「「……」」」

にゅっぢゅぅ……♡♡

「あ、だめ、そのまま引き抜いたら、引っ張られて、ぉ、ぉっ♡」

 無理矢理引っこ抜かれそうになるちんちん。おっぱいもどきは半ば潰れたままそれでもちんちんから精液を引き摺りだすことしか考えておらず、剥がれるようにちんちんを解放していった。

ぬっぽ……♡

「わ、ぁ…っ」

 人生で初めて、自分の手以外でイった。相手は人間じゃないけれど……

 おっぱいの間から溢れる精液の量に、それがどれだけ気持ち良い射精だったのかを現しているようで、僕は目を反らしそうになった。しかし、エイリアン達の挙動でそれを止める。

「「「っ、っ……っ!!」」」

「ひやぁっ!?!」

ぐぢゅもぢゅにっぢゅっぢゅっぢゅぅぅぅう~~~~~っっ!!!♡♡♡♡

 エイリアン達は、溢れた精液やおっぱいの間にある白濁液めがけて突進したのだ。おかげでおっぱいだらけの塊となり、全員が精液を奪おうとしているようだった。

「ど、どういうこと……? 一体何が……あれ?」

 目の前の光景に困惑しながら後退ると、横にあった扉。先程はロックのかかっていた扉がいつの間にか開いていた。

(い……今なら、逃げられるっ!!)

 裸のままスーツを手に持ち、そろりそろりと扉の方に近付く。どうやら僕の精液を餌?と認識しているみたいだけど、いつ殺されるか分からない。扉の向こうがどうなっているか分からないけれど、どうにか……

(……あれ? あれって)

 そこでとある事に気付いたが、その前に――――

「……」

「あっ」

 ギョロリと、一体の目がこちらを向いた。途端に全体にそれは波及し、精液でデロデロのおっぱいを床にズリながらこちらに近付いてくる。

「―――くっ!!」

 咄嗟にその場を跳ぶと、次の瞬間にはそこにエイリアン達が殺到。扉に転がり込んで即座に閉めた。緊急ロックレバーを全力で下げ、向こうから開けられないようにする。

ガガガガガガガガガガ――――――――ッッ!!!!!

「うわっぁぁぁああああああーーーーーーー!!!」

 バリア装置を一瞬で破壊したあの切っ先が扉に叩きつけられる音が響く。だが腐っても旧型の連合軍の艦だったのだ。扉の頑丈さは折り紙付き。それを信じて身体を丸めていた。

 

 そうして数分、狂ったように叩きつけられていた金属音は――――――止んでくれた。

  

「はぁ……はぁ…や、やった……? ……ここは」

 目の前の危機が去り、ようやく周囲に目が向く。ここも通路のようで、窓も付いていた。どうやらここから宇宙空間を観覧できるような場所だった。

 少し歩くと、まるでパーティールームというやつにも見える広い部屋だ。ここで豪商達を出迎えていたのかもしれない。歓迎の言葉の幕も掛かっているし。目に見えて豪華な装飾も幾つもある。

 本当なら直ぐにクリアリングしなければならない。だが、それよりも先に窓の向こうに見えた物に向かって、僕は全ての意識を奪われた。

「あ……―――!!!」

 船が出ている。僕が乗ってきた船が。何の問題もなく出発してしまっている。

「……はは」

 まだどこかで僕は考えていたようだ。”救出されるかも”なんてくだらない希望を。

「……ぁぁ」

 例えゴミ屑みたいな人生でも生きられる場所があるなら幸福なんだと、奴隷真理だったとしても望んでいたのだ。

「ああぁぁあっ」

 あそこが一番安全な場所だったんだ。

「――――――――――――――――――――――――――――――っっっっ!!!!」

 

 喉を引き裂くような悲鳴すら、もう我が家には届かない……

■作者:サーペント


第二話:「暴飲暴食」へ

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